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スローフード
パン作り


【私がトウモロコシの粉と塩で作った最初のころのパンは、言葉通りの鍬焼きに近いパンで、私の家を造ったこけら板か端材に載せて、家の外の焚き火でやきました。パンを囓ると決まってけむりの松材の香りがしたものでした。私は小麦粉も使ってみました。けれども、結局、ライ麦とトウモロコシの粉を混ぜると、最も簡便かつ味も良いとしりました。寒い日には、小さなパンをいくつか、ハトの卵を孵すエジプト人のようにていねいに扱いながら返して、焼き上げるのが楽しみでした。】
【私はパンに炭酸水素ナトリウム(ふくらし粉)を入れず、いかなるアルカリも酸も加えません。私はパンを、紀元前二世紀のローマのマルクス・カトーに従って作っていたのだと思います。】(中略)【「パンを作るには以下のようにする。まず、手とこね鉢をよく洗う。ついで粉を鉢に入れ、水をすこしずつ加えながら全体をよく練る。十分にこね終えたら、形を整え、フタをして焼く」】(第一章経済p81より引用)

ソローの文章を読んで「そうか、パンというのはパン屋さんに売っているようなものじゃなくていいんだ。」と変に納得し、そして早速試します。
 ソローがトウモロコシのパンに拘ったのは恐らくマサチューセッツが小麦粉の産地ではなく、コーンミールの方が安くて手に入りやすかったからだろうと思うので、私はあまり気にせず小麦粉を使います。
 小麦粉と塩と水だけ、というのは実は過去に試してみたのですが、常食する気分にはならなかったので、私はとりあえず、食感を良くするために少しの油分(バターか植物油)と風味を良くする為の少量の砂糖、それから安いし保存も簡単なのでふくらし粉も使います。全部入れてエイエイと練り、フライパンの上に落としてフタをして弱火で焼きます。
ソローに比べると随分色々と贅沢なものが入っていますが、パン屋さんのパンだけをパンと思って暮らしてきた私には新鮮な哲学の香りがして、しみじみと噛みしめてしまいます。

ソローはパンは人を良くする食べ物だと言って、このように楽しんで準備しています。
刺激の強いものを次々と飲んで食べることは、本来の野性が衰え人を駄目にするのだとして退けましたが
空腹の時に簡素なものを必要なだけ食べるときの感じはきっと好きだったのでしょう。

ところで、ソローははじめのうちはパン種を使っていました。
ある日うっかりとパン種の入った瓶を熱くしすぎすぎて破裂させてしまった為
パン種無しで焼いてみたところ何の不具合も無かったので以降はよろこんでパン種なしで済ませている、と書いています。
 パン種は発酵の作用によってパンを膨らませるイースト菌などを指しますが
実はこのパン種から出るガスを捕まえる粘りのあるタンパク質、グルテンが十分に含まれているのは小麦粉だけなのだそうです。
ソローが折角イーストを使っていても、粉がライ麦とコーンミールだけでは
あまり効果を発揮していなかったのかもしれないですね。
 また「アルカリと酸」と書いているのは、この時代イーストを使わないパンやお菓子を膨らませるのに重曹(アルカリ)に酸性の物質(発酵したミルクなど)をくわえてガスを出していたことを指しています。
発酵した物質を殺さないように保っておくのはソローにとってちょっとやっかいだったのでしょう。
(当時の家庭の主婦たちは暖炉の上の棚などに載せて温度を保っていたそうです)
ソローのすぐ後、1860年ころに重曹と酒石酸を混ぜたベーキングパウダーというものが発明されました。
現在のように品質が安定するまでは時間がかかったようですが、
安価だし清潔だし手間も要らないので、ソロー向きではないかと思います。

もちろんソローにとっては本質的なことではないんですが。


更新日:2006-06-21


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