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生涯定職に就かなかったソローの生き方

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脱サラという実験
うつ


【自然の中で暮らし、感覚を十分に楽しんでいれば、人は極度のふさぎ込みにならずにすみます。】
【私は四季を友として親しむ限り、日々の暮らしが重荷になることはないと信じます。】
(第五章「独り居」p168より引用)

とても仕事のできる友人が居ます。仕事繋がりでの友人ではないので同じ会社で働いていたこともなく、具体的な実績というのは知るところではなかったのですが、若くして「会社のエライ人」であった女性の友人です。繊細でよく気のつく人です。あれよあれよという間に心身のバランスを崩していき「不安を和らげる薬」を常用するようになりました。やがて薬でも踏ん張り切れなくなり、「エライ地位」に居た会社を辞めます。その後幾つか会社を変わりますが、あまりにも不幸なのでどこも短期間で辞めてしまいます。彼女は酷い不安の中にいました。ますます薬は増えます。生きて行くのが厭になります。
 あなたが不幸なのは現在ある環境に対するとても健康で真っ当なリアクションなのだから、薬を飲むとか、会社を変えるとか、そんな小手先の小さな変化で自分に小さな嘘を付き続けるようなことは辞めて、もっと原因をはっきり見て根本から変えないといけないのじゃないか、と見ている私はぜひとも言いたかったのですが、私が彼女の人生に責任を持てない以上、言える言葉は本当に限られていました。彼女が自分を傷つけるものを”これぞ自分の命の糧”と信じ、なんとかして自分をそれに沿わせようとする努力に、「それは違うんじゃないかな」という権利はなかったのです。彼女が自分の人生の中でどんな実験をするのかは、彼女自身が選ぶのですから。ただ私には彼女の実験は既に結果が出てしまっているように思え、それを何度か彼女に伝えさせてもらいました。彼女は分かっているのだと言って、それでも自分にはこうするしかない、と悲痛な返事をくれました。

 ソローは分業や細分化を人の歓びを失わせるものとして批判しています。そして森や自然を、切りとらずに全体として享受して楽しむことが好きです。私も共感します。
 「全体として命であること」から離れた場所に居る人が、そこで心身のバランスを崩したり、いつも不安だったりするということは、本当に健康で真っ当な反応なのじゃないかな、と思うのです。生命力の逞しい若々しい魂であれば、まさにそうあってしかるべきなのではないか、と。ふさぎの虫や暮らしが重荷に感じられるということは今行われている実験に対するひとつの結果ではないかと思います。

人間にはきっともっと朗らかな生き方がある。もっともっと方法を考えてみようよ、と、私はあちこちにいる「彼女達」にとても呼びかけたいような気がします。
 「ウオールデン」がもっと読みやすい本であれば、きっと彼女に一冊プレゼントしたでしょうに、心の疲れた時に読むには難解すぎると思ったのでそれもできませんでした。


更新日:2006-06-28


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