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生涯定職に就かなかったソローの生き方

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脱サラという実験
今すぐ出発


【私はある友人からこう言われました。「君は全然お金を貯めてないようだけど、好きな旅も出来ないでしょう。汽車に乗れば、今すぐフィッチバーグを訪ねて来られるのにね。」けれども私にはそうは考えない分別があります。私は経験から最も早い旅人は、足で歩く人であるということを学んでいるからです。】(第一章経済p69より引用)

絵本「ヘンリー、フィッチバーグへいく」の元になった一節の引用です。
二人のうち、どちらが先にフィッチバーグに着くかということについてソローの説明はこうです。
 ソローは今すぐに歩いてフィッチバーグへ向かいます。今日の夜にはもう到着するでしょう。一方汽車に乗る友人は切符代のために今日の昼間を働いて過ごし、今日の夕方か明日に到着するでしょう。ということはいつもソローが先を行っているはずです。ソローは働いてばかりの友人とは異なって地域の実情に触れ、経験を積んだ旅をしてどんどん変わっていくでしょう。
【この、今すぐに始めた方が手っ取り早いという考えはすべてに当てはまる普遍的な結論で、ひとつの法則です。】ソローは何事も今すぐに始めなければ頭が固くなり、気持ちが失せてしまうのだと言います。

実は私がこの部分を読んで思い出したのが、アメリカの誇る青春文学「キャッチャー・イン・ザ・ライ」の中の高校生の主人公ホールデン君とそのガールフレンドの会話の一部でした。全然別のジャンルの書籍ですが独断により唐突にここに引用します。

「もっと先になれば、そういうことをする時間はいくらでもあるわ。好きなことができるじゃない。つまりあなたがカレッジをでて、私たちがもしも結婚して、そういうふうになったあとならってこと。そしたら私たちはいっぱい好きなところに行くことができる。だからあなたはただ・・」
「いや、そうはならないね。先になったら、行きたい場所なんてもうそんなにあるもんか。事情はすっかり変わっちまっている筈だ。大学にいったりしてたら行きたいと思う素晴らしい場所なんてもうありゃしないってこと。ねえ、よくきいてくれよ。先になれば、いまとは全然違っちゃってるはずだ。僕らはスーツケースやらなんやらを持ってエレベーターに乗って下の階まで降りなくちゃいけないだろう。みんなに電話をかけてさよならを言って、泊まり先から絵葉書を書かなくちゃならないだろう。そして僕はどっかの会社で働いてたんまり金を稼いでいることだろう。(中略)先になったら全然話なんて変わってきちゃうんだよ。」(村上春樹訳)
今したいことは今すぐにじゃなきゃ意味がないんだ、というティーンエイジャーの、いらだちに似た焦燥が切なかったので良く覚えている一節です。

ソローの言う、何事もすぐに始める方が的を射ている、というアドバイスと、やや神経症的なホールデン君のいらだちとは違っているのかもしれませんが、でもソローもホールデン君も、人が勇気を出さずに現状に妥協していることに対して同じ言い訳を使うということに気付いています。
 どうしてソローの友人は十分なお金が無いと旅も出来ないと思いこんでいたのか。どうしてホールデン君の彼女は好きなところに行くにはまずカレッジを出なければならないと思いこんでいたのか。さて、どうして私も本質的に幸せでないと薄々勘づきながら都市で会社員生活を続けているのか、と思ったものです。
 その後、田舎に住むのだ、と言って勤めを辞めた時に私もまた上司に言われました。「僕も歳をとったらそういう風に暮らしたいと思う。」彼もどうして歳をとらなければならないと思っていたのでしょうか。

【私達は、いつも誠実に生きるようにさせられています。変われるのに変わらず、自分の小さな暮らしを大切にし、それが唯一の生き方だと思いこんでいます。】(第一章経済p21)

ヘンリーフィッチバーグへいくヘンリーフィッチバーグへいく キャッチャー・イン・ザ・ライキャッチャー・イン・ザ・ライ


更新日:2006-06-28


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