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こんなふうに読んできた
「罪と罰」と「ウォールデン」


【ジョン・フィールドは、正直な、大の働き物者で、どう生きるかなどとは考えない人のようでした。彼の妻もまた、巨大な炊事ストーブを使って来る日も来る日もやみくもに、食事の用意に奮闘してきたようでした。垢にまみれた顔とはだけた胸でいて、いつの日か暮らしが良くなる、と信じていました。いつもモップを手にしているにもかかわらず、まるで掃除ができていないのに、です。】
(第十章「ベイカー農場」p258より引用)
【それにしても彼がアダムの時代にくらべてもまだ古い生き方に固執するなら、この世ではいつも貧しいままで、うだつはあがらず、子どもたちも同じことの繰り返しでしょう】(第十章「ベイカー農場p265より引用)

どれほど正直に苦しんでも状況はちっともよくならないまま、子どもたちもまた同じ運命の繰り返しだろう、というこの言葉は、ドストエフスキーの「罪と罰」の中の有る部分を思い起こします。

「罪の罰」の中から大雑把な解説をさせてもらいます。
ラスコーリニコフという素晴らしく頭は良いが、傲慢この上なく、しかし気が弱く鬱気質の大学生がいます。彼はソーニャという独りの若い娼婦に出会います。飲んだくれで働かないどころか家から金を持ち出しては酒手にする父親と、病身で殆ど家から出ることもできず気の優しいソーニャをいじめる継母、そして三人の幼い弟妹達という家族を食べさせる為に、ソーニャは娼婦になったのです。そして未だに心の弱い愛する父親が金をせびりにくると自分の分の金まで渡すので、家族はいつも不幸で貧しいのです(悲劇的なことにこの家族は大変歪んだ形で互いに強く愛し合っています)。そのソーニャに対してラスコーリニコフは言います。「ポーレチカ(ソーニャの幼い妹)も同じことになるな」。まだあどけない可愛らしい少女ポーレチカも家族の犠牲となって売春をしなければならないだろう、という、確かに普通の神経ではちょっと言えない不気味な予言。ソーニャは言います「そんなことにはなりません。神様が守ってくださいます。」ラスコーリニコフはこう考えます「また神だ、いつだってそうやって現実を見ようとしないのだ」と。
 で、ここからちょっと蛇足になってしまうのですが、この「現実を見ようとしない人々」に苛立ったラスコーリニコフが何をするかというと、人殺しです。意地悪の金貸し婆さんを殺して大金をせしめ、それで学業を終わらせる、事業をして稼いでみんなで幸せになろう、この不幸の歯車を止めよう、と思うのです。ところがやってはみたものの、彼の気の弱さがそれを支えきれずに、結局自首、シベリア送りになります。一方ソーニャなのですが、己のした殺人に苦しむラスコーリニコフを見て、自首をすすめ、そうしてなんとシベリア流刑について行くのですね、ラスコーリニコフはふてくされてソーニャに八つ当たりをしているにもかかわらず。このソーニャという人格は最後まで目の前の哀れみに手をさしのべる、さしのべるどころか自分からその足下に喜んで倒れていくという癖を辞めずにいます。一応はラスコーリニコフとソーニャは愛に目覚め将来に希望を持ち始めるところで小説は終わるのです。(一個の人格として見た場合私はどうもこのソーニャという人格は不思議でならないところがあります。あんたの運命は誰が面倒みるのよ、と思うのですが。)

起こっていることのドラマチックさ、悲劇性においてはドストエフスキーとソローの体験談は勿論比ぶべくもないですが、この「運命は繰り返す」という予言は確かに同じものです。
 みんなが必死に目をそらしていること。現状が幸せでない以上はこのままでは未来も幸せにはならないんじゃないか?という問いは非常に耳痛い問いかけです。ベイカー農場に暮らすジョン・フィールドとその家族は今それほど悲劇的な生活をしているわけではないので目をそらしてまた日々の仕事へ戻っていきます。ソーニャは自分を犠牲にして奇跡を信じるという道を一層強い決意で邁進します。ラスコーリニコフは苛立ちに近い行動でてっとり早く状況を変えようとし、破滅的な状況になります。ソローは二年二ヶ月森にこもり「生きることは楽しい」という呼びかけを150年後の私に残してくれました。
 「罪と罰」は都会と絶望の小説であり、「ウォールデン」は野性と希望に満ちた論文ですが、その基礎のところに置かれた提言が同一のものであることに何となく考え込むものがあるのです。


更新日:2006-06-13


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